蒟醤(きんま)とは何ですか?また普通の漆器との違いは何ですか?
蒟醤についてご説明します。
漆芸の技法の1つ
日本では古くからさまざまな地域で漆器が作られており、その美しく優雅な佇まいから多くの人に愛されてきました。
漆を使った工芸である漆芸は時代とともにさまざまな装飾、表現技法が開発され、貝殻の真珠層を貼り付ける「螺鈿(らでん)」や、漆を彫って作った線に細い金や銀の板を埋めていく「沈金(ちんきん)」などが有名です。
蒟醤はそうした漆芸の技法のひとつで、現在の香川県で生まれ、発展してきました。
蒟醤の技法
漆器は紙や木でできた器に漆を塗ることで耐久性、防水性、艶、色などを加えて作ります。
通常漆は何層かに重ね塗りをしますが、装飾などの細工が施されるのは最後の仕上げの漆を塗ったあとになります。
蒟醤は「ケン」と呼ばれる特殊な彫刻刀で厚めに塗られた漆に細い線を彫り、色がついた漆を流し込んだ後、乾いたら丁寧に磨き上げるという技法です。
色が複雑な場合は「彫る」「色を付ける」を色の数だけ行い、すべての色がそろってから磨き上げます。
香川漆器
蒟醤は現在の香川県で作られる「香川漆器」の代表的な技法の1つです。
香川漆器は「讃岐漆器」「高松漆器」とも呼ばれ、現在もさまざまな作品が数多くつくられています。
香川漆器が産まれたのは江戸時代、書道や茶道、花道に親しみが深い松平藩主が漆器の生産を奨励したことが始まりといわれています。
藩主の手厚い庇護を受けて大いに発展した香川漆器は「蒟醤」のほかに「後藤塗り」「存清(ぞんせい)」「象谷塗り(ぞうこくぬり)」「彫漆(ちょうしつ)」という代表的な5つの技法を生み出し、国の伝統工芸品指定を受けるにいたりました。
蒟醤の特徴
蒟醤で装飾された漆器は、他の技法で装飾された漆器とは大きく異なった特徴と魅力を備えています。
まず、蒟醤で使われる「ケン」は筆に比べて細い線を描き出すことができるため、蒟醤による装飾は非常に緻密な線で描かれた文様となります。
また、蒟醤という名前は東南アジアで親しまれてきた噛み煙草のような嗜好品に使われる「キンマ」という植物の名前が由来となっているのですが、その嗜好品を入れる容器に施された装飾デザインが蒟醤の古典文様に取り入れられています。
そのため、蒟醤の装飾はイスラム美術で見られる「アラベスク模様」や、東南アジアの「更紗」と似た文様も多く、華麗さと優雅さのなかに、どことなくエキゾチックな雰囲気があり、ほかの漆器にはない独特な魅力を持っています。
まとめ
蒟醤の技法は、漆を彫って顔料などを埋め込むという点では同じですが、沈金が全ての線を彫った後に金粉や金箔を押し込むのに対し、蒟醤は色ごとに線彫りと着色を行うという違いがあり、沈金とは一味違う雰囲気に仕上がります。
また、香川漆器は、石川県の「輪島塗」「山中漆器」や福島県の「会津漆器」、和歌山県の「紀州漆器」に比べると知名度が低い存在かも知れませんが、独特な技法を用いた優れた作品も多く輩出されています。