掛け軸にすればどれも同じようだが、何が違う?消息、断簡、古筆の違いについて。
消息、断簡、古筆の違いをご説明します。
同じように見えても実は別物
床の間飾りとして利用される掛け軸のなかでも、季節を選ばず格式高い雰囲気が楽しめる「書」は人気が高い掛け軸です。書を専門に集めている方も多く、有名な書家の作品などは高い価値がつきます。
書は掛け軸にするとどれも同じように見えますが、その内容や形式などによって「消息」「断簡」「古筆」にわけることができます。
消息とは
消息は分かりやすく言うと「手紙」のことです。現在でも、連絡が取れなくなることや連絡や交流がなくなって所在が分からなくなることを「消息を絶つ」といいますが、この「消息」もまさに「手紙」という意味です。
電話やメールなどがなかった時代、離れた人との連絡方法はもっぱら手紙であり、手紙が途絶えるということは相手の所在や生死がわからなくなることを意味します。手紙のことを消息と呼ぶ人がほとんどいなくなった現在でも、連絡が途絶えて所在が不明になることを「消息を絶つ(手紙が途絶える)」と言い表すことに、言葉が持つ歴史の奥深さを感じることができます。
断簡とは
断簡とはきれぎれになって残っている文書や書簡の切れはしのことです。
断簡は、本や巻物、書状などが破損するなどして意図せずできますが、汚れたり破損したりした書の無事な部分だけを切り取って、意図的に断簡にすることもあります。また、冊子や巻物を多くの人が所有できるよう、わざと断簡にするということもあります。
とくに有名なのは、鎌倉時代に作られた絵巻物「佐竹本三十六歌仙絵巻」が大正時代に売り出されたとき、経済界の大物が共同で購入した後に絵巻物を切断したという「絵巻分割事件」です。
断簡にすることで日本の文化財が海外に流出せずにすみましたが、文化財としての価値は低くなり、文化財保護の観点から後の議論を招きました。
古筆とは
古筆は平安時代から鎌倉時代にかけて書かれた和様の名筆です。和様は奈良時代から平安時代にかけての貴族文化の中で発展した様式で、中国から伝来した唐様とは異なる特徴を持った日本独自の書です。
言葉から「古い書のこと」であると勘違いされがちですが、古い書であっても唐様
の書は「古筆」ではありません。和様の書、なかでも特に「かな書」が「古筆」と呼ばれます。
古筆はもともと冊子や絵巻として保存されていましたが、安土桃山時代ごろから「書の手本にしたい」「鑑賞用に所有したい」といった需要が高まると断簡として売りに出されるようになりました。このように、断簡となった古筆は「古筆切(こひつぎれ)」と呼ばれます。
まとめ
消息は書かれた用途、断簡は書の状態、古筆は書体による分類です。そのため、「平安時代に書かれた和様の手紙を切断したもの」であれば消息・断簡・古筆のすべてに該当します。その反対に、「掛け軸にするために書かれた唐様の書」の場合、消息・断簡・古筆のいずれにも該当しません。
すべて同じように見える掛け軸ですが、消息・断簡・古筆といった分類を知っていると、書かれた経緯や来歴に思いをはせることができ、より奥深く鑑賞することができるのではないでしょうか。