重要無形文化財「沈金」保持者(人間国宝)の前史雄とその作品の特徴について。
前史雄とその作品の特徴をご紹介します。
沈金と前史雄(まえ ふみお)
蒔絵、螺鈿、堆錦など、漆器の装飾には様々な技法がありますが、「沈金」も伝統的な装飾技法の一つです。
漆を塗った面に刃物で文様を描き、そこに金箔や金粉を押し込むという技法で、細く繊細な線を描くことができるという特徴があり、金箔ではなく銀箔を使うと「沈銀」、黒漆を使うと「沈黒」と呼ばれます。
元は中国で生まれた技法ですが、南北朝時代に日本に伝来し、室町時代には日本に広く普及・発展したといわれています。
江戸時代ごろには輪島塗に沈金の技法が多く使われるようになり、その伝統は現在にも引き継がれています。
沈金で装飾された輪島塗は日本はもちろん海外でも評価されていますが、中でも特に評価されているのは人間国宝保持者である前史雄の作品です。
人間国宝 前史雄
前史雄は1940年に石川県輪島市で産まれた漆芸家です。
金沢美術工芸大学で日本画を専攻して、大学卒業後は沈金の人間国宝保持者である義父の前大峰に師事して沈金の技法を学びました。
昭和48年に日本伝統工芸展で文部大臣賞を受賞するなどの功績をのこすかたわら、沈金に使用する沈金刀の研究に没頭し、さまざまな技法を研究、習得、研鑽してきました。
立体感を表現するのが難しく、平面的で上質感がないといわれることもあった沈金に「点描」という美術を取り入れることで沈金を進化させた師、前大峰の技術と熱意を引き継ぎつつ、師とは異なる方法で輪島塗や沈金の技術を更に発展させました。
さらに、公立学校における美術教育に携わって後進の育成に努めるなどの功績を認められ、1999年に重要無形文化財「沈金」保持者に認定され、「人間国宝」となりました。
前史雄の作品の特徴
前文雄の作品の特徴は独自の沈金刀研究の成果を活かした多彩な彫刻技法です。
線彫、点彫、コスリ彫、一刀彫といった技法を余すことなく使用して作られた作品は独特な情緒深さと繊細さを持っています。
また、金だけではなく、銀や白金などの素材も使用した豊かな色彩も特徴で、海外でも高く評価されています。
まとめ
国内はもちろん海外でも高く評価されている前史雄の作品は非常に高い価値がつき、高値で取引されています。
また、石川県輪島塗美術館や金沢21世紀美術館、国立近代美術館工芸館などで見ることができますので、機会があればぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか。