印伝(印傳)とは何ですか?その歴史と種類、模様の特徴について教えてください。
印伝の歴史と種類、模様の特徴をご紹介します。
柔らかい風合いが魅力の革細工
狩猟の際、肉と一緒に得ることができる動物の革は、古代から衣類や生活用品などに加工されて親しまれてきました。
現在でも「牛革」「ラムスキン」「オーストリッチ」など、さまざまな種類の皮革がバッグや財布、ベルト、靴などに利用されています。
印伝(いんでん)は主に鹿の革を加工して作られた皮革製品で、単純に皮をなめして使用するのではなく、革をなめした後に染色を行い、漆で模様を描いているという特徴があります。
鹿の革は牛に比べて柔らかく、表面に「シボ」と呼ばれる細かなしわがあり、丈夫で軽く体になじむことから、古くから重宝されてきました。
印伝の歴史
日本書紀の記述によると、日本に鹿革の工芸品が伝来したのは西暦493年のこととされています。
当初は植物の根から取った染料で着色し、木版を使って模様を描いていたようです。
西暦900年代に入ると鹿革はその丈夫さ、軽さ、体になじみやすい柔らかさから甲冑などに使用されるようになり、1467年の応仁の乱以降は戦国という時代背景の後押しもあり、皮革工芸は大いに栄えることとなりました。
江戸時代に入ると海外からインド産装飾革が献上され、その華麗な彩色や模様を模倣して作られ始めた「いんであ革」が印伝の始まりといわれています。
1716年には甲州(現在の山梨県)で漆を使った模様着けの技術が確立され、その後庶民に広く親しまれるなどの歴史を経て、現在、甲州印伝が日本の伝統工芸品として認定されています。
印伝の種類
印伝はほかの鹿革同様、馬の鞍、手甲や甲冑の部材といった馬具や武具のほか、信玄袋、巾着、銭入れ、革羽織、煙草入れなど、さまざまな日用品に使用されました。
また現代では、財布、印鑑ケース、ハンドバッグ、ベルトなどの日用品やファッション小物が作れらています。
印伝の模様
印伝の模様は、着物の生地などによくみられる「青海波(せいがいは)」「亀甲」「麻の葉」といった和の伝統模様のほか、小桜や菖蒲も多く使われてきました。
なかでも菖蒲は「勝負」「尚武」を読みが同じであることから、武運を願う武将の鎧や兜に模様として多用されており「竪菖蒲韋(たてしょうぶかわ)」「水菖蒲韋(みずしょうぶかわ)」「鱗形菖蒲韋(りんけいしょうぶかわ)」など、さまざまなバリエーションが生み出されています。
また、印伝のルーツであるインド伝来の「更紗」に使われる唐草、樹木、ペイズリーなどを用いた「更紗模様」「インド更紗模様」も1772年以降作られており、日本の伝統工芸品でありながら、どこかエキゾチックな風格を醸し出しています。
また、トンボ、干支、打ち出の小づちなど、コミカルな模様を施された印伝もあります。
まとめ
独特な風合いを持つ鹿革と、日本の伝統工芸には欠かすことができない漆が見事にマッチした印伝は、まさに「技術の集合体」です。
需要の変化や後継者不足の影響で姿を消してゆく伝統工芸品も多い中、現在も上質な大人の「粋」として多くに人を魅了する印伝は、日本の皮革工芸にインドの色彩や文様を柔軟に取り込んでいったように、今後も時代とともに変化、発展していくことが期待されています。