伝統工芸で使われる五金。こがね、しろがね、あかがね、くろがね、あおがねとは?
伝統工芸で使われる五金についてご説明します。
古くから使われてきた金属
日本で金属が使われるようになったのは弥生時代からのこと、中国大陸から渡ってきた鉄器や青銅器を使用することから始まり、やがて自分たちの手で作るようになったといわれています。
金属の加工技術が発展するに伴い、工芸に使用される金属の種類も増えていきましたが、なかでも代表的な五種の金属を「五金」と呼ぶ習慣があり、現在でも「こがね」「しろがね」といった呼び方をすることがあります。
五行説とも関わりのある「五金」
五金とは工芸品などに使われる代表的な金属、金・銀・銅・鉄・錫のことです。五金という言葉がいつごろから使われ始めたのかはわかりませんが、江戸時代中期の朱子学者、新井白石の随筆「折たく柴の記(おりたくしばのき)」に「五穀の類は、毛髪の生じ出る事、やむ時なきがごとし、五金の類は、骨骼のふたゝび生ずる事なきに似たり」という記述があることから、「五金」という言葉は江戸時代には定着していたと考えられます。
また、五金という考えは、古代中国に端を発する自然哲学「五行思想」に由来します。日本書紀によると五行が日本に伝来したのは513年とのことですので、五金という言葉はかなり古くから使われていたのかもしれません。
五金の種類
五行思想は季節の移り変わりを抽象化して方位や色などと結び付けたもので、色や方位などは相互に繋がっていると考えられています。五金の名称は金属の色にも由来していますが、五行思想における五色「黄・白・赤・黒・青」とも結び付けられています。
【こがね】
こがねは「金」を指す言葉で、漢字で書くと「黄金」となります。その稀少性や独特な光沢は古くから人々を魅了してきただけではなく、柔らかく薄く延ばせる加工性のよさ、腐食に強いことなどから、さまざまな工芸品や宝飾品の材料に使われてきました。
五行説では、黄色は世界の中央である黄龍や皇帝を意味しています。富や権力の象徴として扱われる金は、まさしく「金属の皇帝」ということなのでしょう。
【しろがね】
しろがねは銀のことで、漢字では「白金」と表記されます。プラチナも「白金」と表記されますがプラチナの場合は「はっきん」と呼ばれます。
銀は月を象徴する金属として、太陽の象徴である金と同様に珍重されてきました。
実りの秋を象徴する「白」と結び付けられて「しろがね」と呼ばれるようになったのは、農耕や漁業と深い関りがある月を象徴する金属だからかもしれません。
【あかがね】
あかがねは銅のことで、漢字では「赤金」と表記します。人類の歴史上もっとも古い金属で、日本や中国では金・銀・銅は三品と呼ばれ珍重されてきました。加工性のよさ、美しい色の変化、優れた耐久性、軽さなどから、神社仏閣の屋根にも使用されています。
【くろがね】
くろがねは鉄のことです。日本の伝統色でも鉄肌のような青みのある暗くにぶい青緑色を「鉄色(くろがねいろ)」と呼んでいます。
「くろがね」は武器を意味する言葉でもあります。鉄は武具の材料として使われてきた金属ですが、五行における黒は武神の性質も備える玄武の色です。このことから、鉄は武器を意味する「くろがね」と呼ばれるようになったのかもしれません。
【あおがね】
あおがねは錫のことです。無毒で耐蝕性があり柔らかくて加工がしやすいことから、主に食器に用いられています。
まとめ
五金はさまざまな伝統工芸品に使われてきました。色や特性だけではなく、五行思想と結び付けて工芸品を鑑賞すれば、一味違う趣を感じられるかもしれません。