常滑焼で有名な「朱泥急須」の見分け方ガイド!おいしいお茶を淹れられる秘訣とは?
「朱泥急須で淹れるとお茶がおいしくなる」と聞いたことはあっても、見分け方や理由まではよく分からないという方は多いと思います。店頭やネットで「朱泥風」の急須も増えているため、本当に良い朱泥急須を選びたい場合は、土の違いやつくりの良し悪しを知っておくことが大切です。
この記事では、常滑焼で知られる朱泥急須の特徴や本物の見分け方、お茶がおいしくなる仕組みについて解説していきます。
常滑焼で有名な「朱泥急須」とは?
朱泥急須は、鉄分を多く含む赤土(朱泥)を原料に、釉薬をかけずに焼き締めた急須のことを指します。とくに愛知県常滑市周辺の常滑焼は、知多半島で採れる鉄分豊富な土を使い、焼成によって赤褐色に発色させた朱泥急須で知られています。
この土は粒子が非常に細かく、焼き締めることで強度と耐水性を持ちながら、内部にごく細かい気孔を残します。その結果、日常使いしやすい丈夫さと、味わいを育てる風合いの両方を兼ね備えた急須になります。
朱泥急須でお茶がおいしくなる3つの理由
1. 鉄分とタンニンの反応で渋みがやわらぐ
常滑の朱泥は鉄分を多く含み、焼成によって酸化鉄として安定した状態になります。この鉄分が、緑茶に含まれるカテキンやタンニンと反応し、渋みや苦みを和らげてくれると考えられています。
実際に、常滑焼の急須や鉄瓶で淹れた煎出液では、タンニン量がやや少なくなる一方で、抗酸化性は大きく損なわれないという研究報告もあります。つまり、「まろやかだけれど、身体にうれしい成分はきちんと残る」というのが朱泥急須の魅力です。
2. 多孔質の土肌が渋み成分を吸着する
焼き締めた朱泥の表面には、人間の目では見えないほど細かな孔が無数にあります。この微細な孔が、お茶の苦み・渋みに関わる一部の成分を吸着し、味わいを柔らかく整えるとされています。
ルピシアの取材記事でも、常滑の朱泥はきめが細かく、急須内面にカテキンが吸着しやすいため、お茶の渋みが抑えられ、まろやかな味になると紹介されています。
3. 熱の伝わり方と保温性が抽出を安定させる
朱泥急須は磁器に比べて熱伝導が穏やかで、保温性にも優れます。そのため、お湯を注いだ瞬間の温度変化が緩やかになり、茶葉に急激なストレスを与えずに成分を引き出すことができます。
また、肉厚すぎない常滑急須は、注ぎ終わりまでの温度も安定しやすく、同じ淹れ方を繰り返しやすいという利点があります。結果として、「いつも同じおいしさ」に近づけやすい道具になります。
常滑焼の朱泥急須を見分ける基本ポイント
1. 土の色と質感を見る
本来の朱泥は、やや落ち着いた赤茶色で、オレンジがかった明るい赤から、少し黒みのある赤褐色まで幅があります。鉄分を含む土が酸化焼成されることでこの色が出ます。
表面は釉薬のテカテカした光沢ではなく、マットでしっとりとした風合いがあります。光を当てると控えめに艶が出ますが、「ガラス質の光沢」ではなく「土の光沢」に近い印象になります。内側も同じ土で作られている場合が多く、外側だけ妙に鮮やかな赤で、内側が真っ白な釉薬という場合は「朱泥風」の可能性があります。
2. 無釉の焼締めかどうかを確認する
常滑の朱泥急須は基本的に無釉焼締めです。表面にガラス質の層がなく、土のきめがそのまま指先に伝わります。最近はカラフルな急須も多く、赤い顔料を混ぜた土や、素地の上に赤茶色の泥しょうを掛けて色を出す量産品も増えています。
このような急須も決して悪いものではありませんが、「土そのものの風合い」と「使い込んだときの変化」を重視するなら、無釉で焼き締められたタイプを選ぶことをおすすめします。
3. 作りの精度と蓋の合い具合を見る
常滑急須は、胴体・注ぎ口・取っ手・蓋・茶こしなどを別々に作り、組み立てる伝統的な技法で成形します。よくできた朱泥急須は特徴があります。
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蓋を回したときにガタつかず、すき間がほとんどない
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取っ手や注ぎ口の付け根に不自然な段差や隙間がない
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注ぐときにお茶の切れがよく、タラタラ垂れない
中国・宜興の紫砂急須との違い
朱泥急須について調べていくと、中国・宜興(ぎこう)の紫砂急須との違いが気になる方も多いと思います。紫砂急須もまた鉄分を多く含んだ土を焼き締めた急須で、渋み成分を和らげてお茶をまろやかにするといわれる点では、常滑の朱泥急須とよく似ています。ただし、その背景や土の種類、デザインにはいくつかの違いがあります。
紫砂急須が作られてきた宜興では、「紫泥」「朱泥」「本山緑泥」など複数の系統の土があり、紫がかった茶色、黄土色、赤茶色など、産地内だけでも多彩な色合いの急須が生まれました。
一方、常滑の朱泥急須は、知多半島で採れる鉄分豊富な土を主な原料としており、日本の煎茶文化に合わせた、比較的シンプルで実用本位の造形が発達してきました。紫砂急須は、取っ手や摘みの装飾性が高いものも多く、造形そのものを鑑賞する楽しみが強いのに対して、常滑の朱泥急須は、注ぎやすさや蓋の合い具合といった「使い心地のよさ」と、素朴な土味を生かしたデザインが大きな魅力になっています。
産地や文化的な背景が異なるため、同じ「鉄分を含む焼締めの急須」でも、まとっている雰囲気は少し違って見えます。どちらが優れているということではなく、中国茶に合わせたいなら紫砂、日本茶を日常的に楽しみたいなら常滑の朱泥急須というように、用途や好みに応じて選び分けると、それぞれの個性をより楽しめます。
また、骨董やコレクションの観点では、産地だけでなく作家や工房の違いが価値に大きく影響しますので、気になる急須がある場合は、自己判断で決めつけずに専門店に相談することをおすすめします。
顔料で色付けした「朱泥風」急須との違い
現在では、かつて常滑で使われていたような良質な田土が枯渇し、量産品の朱泥急須の多くは、白っぽい粘土に鉄を含む赤い顔料を混ぜたり、表面に赤茶色の泥しょうを掛けて色を出しています。これらの急須も、実用としては十分に働きますが、「本来の朱泥」と比べると次のような3つの違いがあります。
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欠けた部分を見ると、中の素地の色が外側と大きく異なる場合がある
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長く使っても、色や艶の変化が比較的乏しい場合がある
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土自体のミネラルバランスが異なり、お茶の味への影響も変わる可能性がある
最近は、自然な色合いと絹のような手触りを目指した「絹朱泥」のような新しい朱泥素材も開発されており、渋みを抑える効果があるという報告も出ています。一口に朱泥急須と言っても、土や製法によって性格が違うことを頭に入れておくと、選ぶ楽しみが広がります。
良い朱泥急須を選ぶためのチェックポイント
実際にお店やご自宅で朱泥急須を見るときは、次のような点を確認すると判断しやすくなります。
色と質感のバランス
不自然に真っ赤すぎるよりも、少し落ち着いた赤茶色で、マットな中にしっとりした艶が感じられるものを選ぶと、土の良さを感じやすくなります。
蓋の合い具合と注ぎやすさ
蓋を閉めて軽く回したときにガタつきが少ないこと、実際に水を入れて注いだときにスムーズに切れることを確認すると安心できます。
茶こしの形状
伝統的な常滑急須には、胴と一体になった陶製の「ささめ」タイプの茶こしも多く見られます。細かな穴がきれいに開いているかどうかも、仕上げの丁寧さの目安になります。
作家名・窯名の有無
底や蓋裏に刻印や銘が入っている場合、作り手が特定できることがあり、骨董的な評価にもつながります。
まとめ
朱泥急須は、鉄分を多く含む土を無釉で焼き締めることで、渋みを和らげてお茶をまろやかにしてくれる、まさに「味を育てる道具」です。常滑焼の朱泥急須は、赤茶色の落ち着いた色合いと素朴な土肌、蓋の合い具合や注ぎやすさといった機能美が一体となり、日本茶をおいしく楽しむための理にかなった形にたどり着いています。
見分ける際には、土の色と質感、無釉の焼締めかどうか、蓋や注ぎ口の作りの精度、作家や窯の刻印といったポイントを意識すると、良い朱泥急須に出会いやすくなります。お手入れでは、洗剤を使わずぬるま湯で優しくすすぎ、よく乾かしてからしまうこと、香りの強いお茶とは急須を分けることが、長く気持ちよく使い続けるためのコツになります。
お手元の朱泥急須が「本当に良いものか知りたい」「常滑焼かどうか見てほしい」と感じたときは、専門店に一度相談してみてください。ゴトーマンでも、常滑焼の朱泥急須をはじめとした茶道具の査定やご相談を承っていますので、気になるお品があればお気軽にお問い合わせいただけます。
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